冬から春へ。
春一番が吹いても、いまだ冷える冬キャンプ。そんな季節の変わり目には、体を内側から温めてくれる料理がありがたい。酒粕料理の極意を、アウトドア料理家が伝授します。
日本料理の知恵・酒粕料理
里芋や酒のアラを炊きこんだ「粕汁」。
酒粕を湯で溶いて温め、ショウガを卸し入れた「酒かす甘酒」。
味噌と一緒に練り上げた酒粕に鮭などを漬け込んだ「粕漬け」。
酒粕を使った料理は香ばしくてほんのり甘く、かじかんだ冬の心身をフッと温かくしてくれます。
季節は早春。それでも夕暮れのディナー時ともなれば、ヒヤヒヤと寒気が忍び寄るもの。体を中から温めてくれる「酒粕料理」を、筆者の知人であるアウトドア料理研究家・草薙彬人さんが伝授してくれました。
鶏の酒粕煮
今回紹介させていただきますのは、「鶏の酒粕煮」。そして定番の「酒粕甘酒」です。
鶏の白菜煮
材料(3、4人分)
酒粕200g
手羽元12本
鶏ガラスープ 1000ml
白味噌 大さじ4
醤油・みりん 各大さじ1
白菜 1/4
人参 2本
生姜千切り 親指大
ネギ 1本
作り方
①まず野菜類は洗い、人参は皮を剥きます。その上で、すべて食べやすい大きさに刻みます。
②ダッチオーブンの底に鶏の手羽を仕込んだ後、刻んだ野菜とショウガを載せ、そして白味噌にみりん、醤油、鶏がらスープを加えます。鶏がらスープは、顆粒タイプでもかまいません。
③酒粕を加えます。写真の酒粕は一袋300g入りなので、袋の三分の2を使う計算です。ここでは練り粕を使用しましたが、このような煮込み料理では、固く絞め上げた「板粕」でも問題ありません。
④最後に、丸めてから広げ、多少シワをつけたアルミホイルを上面に被せます。その上で蓋を閉めます。煮込むうちに出るアクはこのアルミホイルに吸収され、面倒なアク取りも格段に楽になります。
⑤炭火にかけ、蓋には上火の炭を置いて20分ほど煮込みます。この写真では、上火に「ニトリのスキレット」を置いてシーズニング作業中。まさに一石二鳥!
⑥20分煮込んで火から下す。アク取り用のアルミホイルを取り除いてみれば、内部では野菜から出た水分と鶏がらスープが交わり、酒粕をとろかす。結果、またとない滋味が熟成されております。ここで再度蓋を閉め、火から下し、保温用の上火のみ置いてさらに20分ほど寝かせましょう。
⑦完成品。肉厚のダッチオーブン効果により、鶏の手羽はホロリと柔らかく、芳醇な酒粕が絶妙の旨みを醸し出します。
最後に残ったスープは素材の出汁が溶けこんで絶妙、茹で麺でも加えればシメに最高です。
身体が温まる酒粕甘酒
酒粕とくれば、やはり甘酒。
酒粕を利用した甘酒も、柔らかな早春の陽光と共に体を中から温めてくれます。
材料(2人分)
酒粕 100g
水 180ml
砂糖 10g(スティック砂糖2本分)
ショウガ 少々
①まず酒粕は容器に取り、水を注いで丹念に溶かします。
②弱火にかけて加熱します。ここでは、ダッチオーブンの上火を使用しました。
③沸騰寸前になったら火から下し、砂糖で好みの甘さに調味した上でおろしショウガを加えて完成。
寒空の調理、甘酒でホッとひと息つく草薙さん。
定番の「粕漬け」は、保存がきいて便利!
そのほか、酒粕に同量の味噌を加えて練り混ぜた「粕床」に塩鮭などを漬け込んだ「粕漬け」も美味いもの。自宅で作ってジップロックに納めて持参し、フィールドで焼き上げれば燗酒のつまみに最高です。ある程度は保存がきくので、冷蔵庫から出して1日程度は常温で放置しても安全です。もちろん、食べる際は炭火などでしっかり焼いてください。
ここがポイント
・酒粕は「練り粕」を使おう
今回、酒粕は宝酒造から発売されている松竹梅の「吟醸粕」(300gで400円ほど)を使用しました。調理用具をたくさん持ちこめないアウトドアでは、すりつぶす必要のある「板粕」よりも格段に便利。特に、甘酒作りでは練る手間もはぶけて最高です。
・熱源は、広葉樹の薪か、天然木の炭を使おう
成形炭であるハイカロ炭は、いささか火力が弱い。煮込み料理には不向きです。さらに、燃え尽きれば壊れやすく、ダッチオーブンの上火として移動する際に灰をまき散らす恐れがあります。やはり燃料には火力と火持ちに優れた広葉樹の薪か熾火、そしてナラ炭が最良です。
燃料が何であれ、一度煮立てば素材の滋味を封じ込めるダッチオーブン、旨みを丸くまとめ上げる酒粕の力!季節の変わり目は酒粕料理で身も心も温まりましょう!
料理/草薙彬人 撮影/後藤秀二 文/角田陽一