家族とアウトドアを楽しむ

オンラインストア cabinet

 
カートの内容
カートは空です

グッドバイ


大きく厚い雲の塊が風に流されて
ゆっくりと視界の右から左へ移動していく。

いったいあれは何で出来ていてなんでああも空にゆったりと浮かんでいるんだろうと
子供の時は不思議に、そして神秘的に思えたものだ。

あぁ光が重なるとそこはまさに神の住処・・・


悟は外を見ながらそんなことを考え、佳代の話すのを完全に上の空で聞いていた。

「ねぇ悟、なんでだと思う!?」
「なんでこういったラブロマンス映画は、劇的な不運を必ず盛り込んでくるんだろ!?」

DVDをレンタルして悟の部屋で観る、というのが週末特に予定のない場合の二人の過ごし方で、
だいたいの場合、佳代が好きなベタベタなラブロマンスか、ちょっとエグいSFものになることが多い。

今日はラブロマンスものを上映。

偶然出会った男女が普通に恋をして結ばれて幸せ絶頂のタイミングで
隠してた不治の病を明かさないといけなくなり・・・
的な内容のものだった。

「幸せなら幸せなまま盛り上がって、幸せなまま終わらせてくれればいいのに!」

普通の感覚の人間なら大好物な流れのはずなのに
なぜか佳代は決まってそんなことを言う。

そして悟はだいたい、
「まぁ観てる方も作る方もやっぱ盛り上がりたいからじゃないかな? 非現実的なストーリーに・・・」
とわりとテキトーなコメントでその場を流してしまう。

しかも悟にとったら映画館で観ようが、自宅でDVDで観ようが
佳代と一緒にいる時間の方が重要で、
その映画の内容までには考えが及ばないし、どうでもいいと言ったらどうでもいいのだ。

悟はいつもそればっかだねー
と佳代には突っ込まれるが、そこはもうしょうがないじゃん、と思っていた。

そもそも俺も盛り上げて欲しいほうだし・・・


「悟さー、事実は小説より奇なりって知らないの?
作った無理やりな感動より現実に起きることの方が数百倍シュール(非現実的で)でステキなのに!」

「それに、なんにもなくても幸せならそれはステキな物語だよ。」


あぁ。
目の前の佳代もシュールでステキですが…
と思いながらも


「でもそれならなんで佳代はそんなのばかり観るんだよ。」

と反撃してみた。


「ん? そんなの決まってるじゃん! 感動したいからです。」



なにその矛盾・・・





*   *   *


そんなやりとりや、普通の恋人どうしの毎日が、毎週が、毎月が、そして毎年が

普通に過ぎるかと思っていたけど

ある日突然佳代はこう切り出してきた。

「悟くん。ちょっと訳があって、別れよう。」

とてもさっぱりとした口調だった。

え・・・はい。
とついつい即了承してしまうくらいの。

それが最初から決まっていたかのような

いかにも佳代らしい

あっけらかんとした口調・・・。

「でも急過ぎて。なんでかな佳代。」

と聞いてみるが


「悟!グッドバイだよ!」


・・・・


あー是非も無し


そんなとこが


最後もステキだな佳代は・・・






*   *   *


涙や心が潰れるような気持ちは数日遅れてやってきた。
ようやく現実に頭と心が追い付いたような。

あーなるほど。

現実ってわりとシュールなんだな、と
なんとなく佳代の言葉を思い出した。

そのまま幸せな方が良いって言ってたじゃん。
なんだよこれ・・・

などと人並みに傷心に浸り

何かこの空っぽになってしまった心を埋めるものが欲しいな・・・とも思った。

佳代の "か" か・・・

かーかー・・・絵画?
いやいやそんなセンスは持ち合わせていない。

そもそも佳代の "か" ってなんだよ。笑

などと不毛な考えを繰り返しながら
悟が出した答えはキャンプだった。

しかもソロキャンプというのが今の自分には合ってそうだなと思い
キャンプ好きの友人を頼ったり雑誌を見てみたりと色々調べた。

そうすることが無暗に佳代のことを思い出さないようにするにはちょうど良く
案外自分が凝り性なんだなということの発見にもなった。

テントはHILLEBARGのナマッジ。
ベースはグリーンの物を選び、インナーのイエローが好みだった。

前ならテントなんかに10万を超えるお金は使わなかったな・・・

あらためて独りになったことを思い知らされたが、
決して悪くなく、新しい世界、そして新しい自分を楽しんでいるな、と感じていた。

これで犬でも飼ったらもう完璧に違う人間になってしまう。
まぁそれもいいかな。

犬を飼うためにペットOKの部屋を探して、
そもそも犬種は何にしようか。
庭が必要な大型犬は最初から無理だから小さい室内犬にしよう。



佳代は

佳代とだったら

どんな犬を飼ってただろう。

悟くん!じゃあ思い切って庭付きの戸建てに引っ越そうか!

と佳代なら言いそうだな。

後先考えないように見えて実は色々答えを用意している人だったし、
きっと納得いく着地をプレゼンされていただろう。



急に佳代を思い出し

たまらなく会いたくなった。

電話番号を指で迷いながら探し

コールする直前で

やめた。



あんなにはっきりと

そしてきっぱりと

別れを告げられた相手に。

しかも相手は佳代だぞ。

悟くん、情けないなー。男ならメソメソするな!
と半分怒り気味に笑われそう。


グッドバイか・・・。

グッドを強調した言い方がいかにも佳代らしくて
好きだなーっとなかば未練がましく思うのは
まだ許されるだろうか。

なぜ別れを告げられたのかはまったくわからないけど

佳代にしたらきっとグッドな選択だったんだろうと思う。

きっとそれは僕にとっても。

佳代がそう思ったのなら取り敢えず受け止めておこう。

きっとまたどこかで

会えると信じているし

ひょっとして佳代なら ”久しぶり!さて・・・どうしよっか?”

なんて何もなかったようにこれからの事を話し出すかもしれない。


その時はこう言ってやろう

佳代

なんでグッドバイだったかはわからないけど

確かに現実の方が

シュールで

ままならなくて

怖くて、新しくて

そして


ステキだったよ と。




今日も風が強く
大きく厚い雲の塊が
ゆっくりと右から左へ流されていった。

 

あとがき

テーマとしては別れではありますが
そこに明確な理由を付けていないのは
単純に明確にしてしまうと悲しい気持ちの輪郭が
はっきりとしてしまいただの悲しいだけのストーリーになってしまうから。
メロウでちょっと悲しいような
でもすこし幸せなような
そんな曖昧な感じが良いかなーと。

だから何って感じですが。笑

失恋したらキャンプしようぜ!!!てのと
キャンプに犬連れて行ったら楽しいやろなー
ってことが言いたかったのです!

ということで!

また次回の作品でお会いしましょうー

Related

関連記事